Cicada
豆瓣
简介
冒頭を飾るのは種類の違う三つのアップテンポな曲。2はアンビエントな柔らかさ、3はレトロなバンドネオンの華麗さ、そして4は打ち込みのビートにアコースティックな楽器が絡んでゆく儚さです。2が今作で最も明るい曲調を持ち、ボサノバの夏テイストで心地よいですね。一方他の二つはアップテンポながら悲哀が特徴的で、今作全体のクールな印象に大きく繋がってゆきます。
5「Star Ferry」は蘇州夜曲に通じる幻想的な旋律が素晴らしいです。その美しいレガートをひけるのは持ち前の柔和で澄んだ高音だからこそ。ファルセットと実声の境目が見えない歌声がこの曲の滑らかさを実現するのです。蘇州夜曲にはララバイの要素もありますが、この5の“おやすみ愛しいひとよ”という詞も同様の曲想を覚えさせます。因みに同じ詞が小田和正「時に抱かれて」にも出てきますが、あちらはシンプルな歌詞、こちらは場面描写が雄弁ですね。
作品は中盤以降ますます佳曲が揃います。7「STRIPE!」は今作で最も涼しいナンバー。加速するスキーが描くシュプールや、白と青というコントラストが鮮やかに目に浮かぶよう。昔ユーミンや浜田省吾が一つのアルバムにSURF&SNOW両テーマを入れたことは有名ですが、夏に雪を思わせる手法は実に涼しいですよね。
続いて実直な詞が魅力の氏ならではの切ないバラード8「この傘をたためば」10「BLIND」が聴き所。後者のキスが変った描写を平常心の歌表情で歌うところが印象的でした。僕という目隠しを、という表現がとくに。そして終曲「Cicada」とは蝉。その儚い生き方に映した氏の中島みゆき的ヒューマンタッチな曲想が魅力です。
全体に漂うどこか切なかったりクールだったりするカラーは従来から氏の持ち味ではありますが、しかし作品の思想として決して光に満ち溢れた色彩ではなく、内側から内側へ音色が運ばれてゆく作風であることを思えば、それらの特徴が彼のPOPSセンスの高みと相まって、聴き応えのある内省的な傑作として実を結んだといえると思います。今日でさえこの優れたPOPSは今のシーンより新しく優れているのですから。
※初回ボーナスの「待ってたぜBaby!」はディスコソウルにダンスサウンドが混じった曲ですが、槇原氏ではなく正直かなり素人な男女が歌っているだけですので、ファン以外の方はそれほど気にする必要はない特典です。
tracks
1.~Introduction for Cicada~
2.Pool
3.Hungry Spider
4.HAPPY DANCE(アルバム・ヴァージョン)
5.Star Ferry
6.青春
7.STRIPE!
8.この傘をたためば
9.The Future Attraction
10.BLIND
11.Name Of Love
12.Cicada