素顔の孫文――国父になった大ぼら吹き
豆瓣
横山 宏章
简介
2011年は辛亥革命勃発100年で,日本で,中国大陸で,台湾で,海外で,様ざまなシンポジウムが催され,関連書が多数出された.私も小社から出された『総合研究 辛亥革命』(辛亥革命百周年記念論集編集委員会編)の編集に携わった.中国では胡錦濤主席が記念講演で「中華民族の復興」を連呼し,台湾では馬英九総統が「民主・自由・均富の達成」を謳いあげた.辛亥革命をどう評価し,どのような歴史叙述に乗せるかは,国家の正統性に関わる一大事だ.
と同時に国家の存亡にとって重要なのは,中国・台湾ともに「国父」として戴く孫文(孫中山・孫逸仙)の評価である.このような事情から,孫文には多くの伝記や評伝がありながら,英雄史観に彩られて,否定的評価を許さず,過大評価や事後的解釈が目についてきた.資料があまりに多すぎで,あるいは偏っていて,孫文自身は伝記や日記の類を残さなかったので,等身大の孫文像を描いたような作品は現れなかった.
横山先生は長年,中華民国史研究に携わり,おびただしい原資料を踏まえ,特に陳独秀や袁世凱など,人物評伝を多く手掛けられてきた.孫文関係でも評伝や研究書がある.本書はそのような学術的背景に裏付けられながら,学術的な体裁から離れて,英雄史観ではない,誰もが親しめる「素顔の孫文」を活写したものである.
本書を通して浮かんでくる孫文像は,国際的な知識人として該博な知識を持ちながら,それをひけらかさず,蜂起の失敗にもめげず,同志の離反や死別にも見舞われながら行動する,革命の夢想家である.女性にはめっぽう弱く,宋慶齢とのロマンスもどうも一筋縄ではいかないようだ.孫文のキャラクターから,中国革命やその後の建国への道程が,ある程度類推できるように思う.また,彼と袂を分かった革命家たちの思想に鑑みれば,中国革命の限界,あるいは別の可能性が示唆されているようにも思う.いろいろな想像を働かせながら読める,魅力に富んだ評伝である.
contents
第Ⅰ章 広東の田舎育ち
第Ⅱ章 清朝打倒の革命家へ
第Ⅲ章 反満革命の成功と反袁革命の敗北
第Ⅳ章 日本亡命と日本への依存
第Ⅴ章 二度の広東地方政権とその挫折
第Ⅵ章 コミンテルンの支援と国共合作
第Ⅶ章 講話「三民主義」と遺嘱「革命はいまだなお成功せず」