まず、三つの声ありき。
バニラ、静暮、やす。この三人は、「声」による表現を大前提にこれまでの活動を進めてきた。
ライヴ活動では、三人がフロントに立ち、一般にライヴで使用される様な楽器は滅多に、と言っていい程使用しない。そのスタンスを貫いてきたアネモネが、今回のアルバムでは大冒険を繰り広げた。
アネモネ2枚目のフルアルバムにあたる本作は、書き下ろし5曲を含む9曲入り。元々の持ち味であるノスタルジックな唄声と演奏はもちろん、豪華ゲストの参加により、更に表現のベクトルを広げた仕上がりとなっている。
まず一曲目から立ち上がるあたたかな音色は「カナリア」。
今までのアネモネには見られなかった感情の広がりを見せる。
作曲・アレンジ・プログラムまでをRED SUNの由田直也氏が担当。アネモネの詩世界を担うバニラの新しい試みに、より深みとふくよかさを与えた。続く二曲目でもある「やすみなき恋」の、昨年末に先行販売されているバージョンからアレンジ・プログラムを手がけていることもあり、アネモネ3人の「声」を最大限に活かした楽曲となった。
「やすみなき恋」アルバムバージョンでは、RED SUNとのコラボレーションであった昨年末のバージョンを活かしつつ、作曲者であるやすの声が新たに加わった。
是非、両バージョンそれぞれの雰囲気の変化をお聴きいただきたい。
三曲目「花ハ想フ」では、静暮がバンドアネモネのために曲を書き下ろすという、こちらも初の試み。プログラミングだけでは表現しきれなかったダイナミズムが、「アネモネの音」に加わった一曲である。
「せつなさの周波数」では、メンバーと交友のあるグルグル映畫館の天野鳶丸氏が「是非アネモネで」と、楽曲を提供。
『アネモウヌ』に収録の「赤色の謌」に引き続き、天野氏の曲としては二曲目となる。
そして「HANABI」「夜奏曲」では、再びバンド形態での演奏を収録。ゲストミュージシャンに先述の由田直也氏(G.)をはじめ、マグノリアからチロ氏(B.)とセバ氏(Dr.)を迎え、ディレクションは全て由田氏に委ねた。
結果、先程の「花ハ想フ」でも書いたバンドならではのダイナミズム、そして激しさ、雄大さが、それぞれの楽曲で発揮されている。
アネモネオリジナルの楽曲を、今までにはなかったバンドの音でという試み。皆様にはどんな発見が訪れるだろうか。
「ぽたり、椿、雪の上。」では、既に発売のミニアルバム「華一華」に収録されている「罪の花」に引き続き、手回しオルゴールによる演奏で、やすがソロをとる。情景がありありと見えるような一曲に仕上がった。
また、昨年秋にリリースされたマキシシングル「ハナノウタ」に収録された「砂の色」は、音色・唄を全面リニューアル。生に近い音色と、唄いこなした声で、より寂寥感が増したように思われる。
最後の曲「風の娘」では、3人がグラデーションを織りなす様にリードヴォーカルをとる形となっており、暗いトーンの多いアネモネの楽曲の中に置いては、珍しく前向きにアルバムを終える形となっている。
以上、9曲。
また、アルバムジャケット・ブックレットのアートディレクションに、多方面からの絶大な支持を得るサクライアヲ氏(ROCKETMAN BLUES・cali≠gariギタリスト[桜井青])、フォトグラファーに「寫眞館ゼラチン」を起用し、芸術面でも更なる飛躍を果たしている。